アビガン承認の前倒しは重い決断

5月4日の安倍首相の会見で、アビガンの承認を5月中に行うよう厚生労働省に指示したと明かしました。

多分多くの国民が望んでいたものだと思います。ただこれは皆さんが思うよりはるかに重い決断です。なにしろアビガンが新型コロナウイルスに有効かどうかはまだわかっていないのですから。

 

副作用の話は置いておくとして、今後の治験でアビガンが新型コロナウイルスに有効でない可能性は少なからず残っています。そしてもし、有効でないことが明らかになれば、この決断は「ばかげた愚かな決断」、まさに大衆迎合ポピュリズムそのものの大愚策となります。

一方、もし有効であることが示されれば、この決断は「大英断」と称賛されるでしょう。

 

これはものすごく重い賭けです。

 

安倍首相の会見の一部を末尾にのせています。これを読むと、企業治験が進んでいないことがわかります。

 

「アビガンを患者に投与して症状の改善があった」ことだけをもって「アビガンが新型コロナウイルスに効く」ということにはなりません。新型コロナウイルスの場合は自然回復も多く、また有名なプラセボ効果というのもあります。

 

もちろん、「アビガンを患者に投与して症状の改善があった」という事例が多ければ多いほど、効いている可能性は高くなるでしょう。ただ、それだけでは科学的には効果があったとはいえないのです。

 

本来、医者にもわからないように参加を承諾した被験者を実薬投与群と偽薬投与群にランダムに分け、その両群の結果を統計的に分析して、有意差があって初めてその効果が認められます。いわゆる二重盲検法ですね。これをきちんと管理して行うのが第三相試験でこれは一般に開発企業が行う企業治験として行われます。

 

アビガンについては、約百例に対してその治験(企業治験)を行おうとしました。ところが、自分が偽薬群に入るかもしれないという理由で企業治験に参加する人が少なかったようです。早くからアビガンの効果が喧伝されていましたから、患者としては偽薬を投与される可能性のある企業治験よりも、確実にアビガンが投与される観察研究を選ぶでしょう。それは思念なことです。

 

日本における企業治験は、もう望み薄でしょう。アビガンへの期待は前よりも高まっていますから。

一方、アメリカやイタリアでも企業治験が行われているようです。こちらは感染確定者や死者が日本に比べてけた違いに多いので、被験者の募集は比較的容易です。対処法がない病気にかかって、二分の一の確率で有効かもしれない薬がただで処方してもらえるのなら、被験者を希望することも少なくないでしょう。他の多数の国にも無償でアビガンを提供していますので、それらの国では臨床試験も行うでしょう。その中には第3相試験を行う国も出てくるでしょう。英、仏、独あたりは期待大です。

 

こういう治験で有効であることが示されることを切に願います。

 

※アビガンを多数の国に無償で提供することに対して、一部の方はものすごく怒っていました。しかし、上のような理由があるとしたらどうでしょうか。

 

---会見および記者質問への該当部分---

わが国で開発されたアビガンについても、すでに3000例近い投与が行われ、臨床試験が着実に進んでいます。
こうしたデータも踏まえながら、有効性が確認されれば、医師の処方のもと使えるように薬事承認をしていきたい。
今月中の承認を目指したいと考えています。
あらゆる手を尽くして次なる流行に万全の備えを固めていく、そのための1カ月にしなければならないと考えています

 「ただこれは、患者の方が希望して、そして各病院の倫理委員会が承認をしたら使えるということでありまして、ですから、われわれはある程度の効果がございましたので、なるべく多くの方が患者の方が希望すれば、使えるようにしてもらいたいということは、厚生労働省にも申し上げているわけでございますが、これはあと各病院がそれぞれ決めることであります」

 「と同時にこれは、新型コロナウイルスにおいてはまだ承認をされていません。あの新型インフルエンザにおいては承認をされているわけでありますが、ここで承認をするために、企業治験を終えなければならないということでありまして。ただ企業治験が進んでいるのでありますが、なかなかこの企業治験、治験に参加しようという患者さんがいて初めて企業治験が増えていくのでありますが、企業治験に進むという、企業治験を希望される患者の方々、例えば『プラシーボ』を飲む可能性があるということも含めて、了解をしていただかなければならないわけでありまして。そうしたことでなかなか症例は進んでいないのであります」

 「一方、臨床研究によって症例が重なってきまして、この重なってきたことによってある程度が重なれば専門家の皆さまが判断して、効果があるかどうかというその分析解析が出ます。で、それに対して企業が申請をしたら、それに対して承認をするかどうかということになるわけでなりまして、一般の企業治験とは違う形で承認の道もあるわけでありまして。おそらくそちらの方になるのではないかともいわれておりますが。私もまだ確たることはいえないのでありますが、ここで冒頭申し上げましたように、成果が、効果があるという成果が出れば、月内の承認を目指していきたい。こう思っております。70万人分すでに備蓄がございますし、それをさらに200万人分まで生産を進めていただくように、すでにこれはお願いをしているところであります」